To be continued

単純な日記です。

オワタのこと

アルバイト先で、棚がやたらと密集している場所があって、そこは頻繁に通る場所だからそういう時、体を横にしてすり抜ける様にしていつもは通っている。今日は忙しかったのに、僕は両手にたくさんの紙の束と本を持って抱え込む様に歩いていて、しかも結構なスピードで歩いていた。レジが推すので、早く戻らないとまたチンチンチンチン呼び鈴を鬼の様に鳴らされてしまうのも嫌だった…とにかく僕は、両手にこれでもかというくらいの荷物を持ってその、すごく狭い場所の半分くらいまで来て「あれっ」て思った。「あれっ…通れるわけないじゃん」そこで唐突に僕は、気づいた。通れるわけがない。普通に通るのさえ苦しいのに、荷物を抱えてかさばった状態で行けるはずがない。なのに何故…もう両の手を駆使しても持ち替え不可能なくらいの量の荷物だった。すこし工夫すれば、たとえば、両手の他に顔を使って、三点の支える力で荷物をすべてもって行くとか、あるいは、棚に置いていくとか、荷物を押しつぶすとか撓めて通るとか、そういう事さえもとにかく荷物が大きく場所が狭いためにすべて無理だったなと一瞬で分かる。「あれっ…」僕は、なんで、こんなところ通ろうと思ったんだろうと考えて、すぐさまその場でパニックに陥った。僕は、正直どうでもいいけど、「やばい」と何故か思った。とにかく、もうすぐ30歳なのにこの判断ミスはやばい。ここを通れないってこと、普通に賢い小学五年生でも分かると思う。僕も、冷静な時だったら分かったと思う。「通れるわけがない」ということを。とにかくそういうとき、何故かわからないけど脳味噌というのは過去の経験のデータフォルダを血眼で探し出す状態になるみたいで、僕は、なんとなくででも、「それでも、不可能な状況を、何か知らんが奇跡的にくぐり抜けた時」の感覚をその時思い出したのだった。つねづね、体感というのはけっこういい加減と思っていて、だから5メートル先のゴミ箱にゴミを放っても、これは完ぺきに無理だなって思っていても意外とど真ん中に入ったりすることってけっこうある。レジまで来てしまい、あっ金がないと気付いて、汗をかいたまま会計したら何故だか足りていた…みたいな経験。僕というか僕の脳味噌は、その中途半端な場所に立たされた理論上百戦錬磨のバスケットボールマンみたいになって一瞬でそのことをほじくりだして来ていた。何故かそこで勝とうとしていたのだ。
僕は、両手に荷物を死ぬほど抱えたままでなんの工夫もないままそこをなんとか、通り抜けようとした。結局、一秒後くらいに全部それを床に落とした。

…その時、ああこれ「オワタ」だなと強烈に思った。小咄でよくある、一匹の猿が良いものの入れられた瓢箪の中に手を突っ込んで、その中にあるものを掴み出したいのだが、手をグーの状態にしているから手前でつっかえて外に手を戻せなくなってしまうやつ。実際は欲を捨て、猿が良いものを手放し、手を緩ませれば余裕で瓢箪から手は抜けるのだ…けど猿は馬鹿だからそれに気がつかない、それが人間と猿の違いなのですみたいな話、あるけど、あれをリアルに、もう二十代も後半で体験してしまった様な気がした。


出来ない、って分かってたのに、普通に分かるのに、なんでやろうとしたんだろうな。絶対、判断間違えてるよなって思って、その瞬間、僕の感情は完全に人として「オワタ」だったなと僕は思った。