To be continued

単純な日記です。

小説ー桃太郎の大冒険クエスト

種子島で桃から生まれた桃次郎は、ブタ、魚、ハムスターとダークサイド沼田を従えて鬼ヶ島へ行く決心をした。ちなみに、ダークサイド沼田は平常時に限って精神の均衡が取れていないことで有名な青年だった。

「ちと、待ってくれんか。」

「どうした。桃太郎」

「鬼ヶ島へ行く前に、お世話になったお地蔵さんにお供えもんをしていきたいんじゃ…今まで村中から放ったらかされていたお地蔵さんに、おら一人で毎日お供えもんをしてきたのだが、今回何日家を空けるかわからないんで、万一にでも裏切られたと思われて呪いをかけられたらたまらんからな。」

「わかった。この、きびだんごを」

「ちがう。おらの大事な、この佐渡島探求列伝を置いてゆく。」

「ほ、ほう…」

パサッ!

大分傷んだお地蔵の前に、佐渡島探求列伝が置かれた。
ーちなみに、佐渡島探求列伝を読んでいる人間はこの世に一人もいない。何故かというと、廃れたからである。




出発前夜のその晩。種子島は不穏な空気に包まれていた。まるで、太鼓が轟くような陰気な雲、それから熱風がふく。

(…た…ろう…も…も…たろ…う)

「ん?」

囁くような声が聞こえ、桃太郎は目を覚ました。すると、不思議なことに、枕元に昼間のお地蔵さんが立っているではないか。

「一体、どうした。」

桃太郎は尋ねた。

(ひとつ。言いたいことがある)

「なんじゃ」

(おぬし…この戦乱の世に乗じて、鬼ケ原へ参る気か。)

「そうじゃ。わしには、そうやって生きるしか、能がない男での。お供にブタが加わったことで、一層わしの軍も頼もしくなったわい。」

ーここでブタの自己紹介。

ブタは、ブタでいることの傍らに、副業としてネットスーパーの宅配業をお手伝いしていた。

(そうか。)

「何か」

(いや…ンムッ、その、な。お祈りの件じゃ。)

「はて。何かあったかのう」

(おぬし、宗派が違うのにわしの敷地で毎日、毎日祈りおる。まことにありがたいことなのじゃが、もう少し、謹んではくれぬか。)

「左様でござったか。」

(神々の手前、その…立場があるでの。廃れた拝堂と言えども、誰もおらぬわけではないのでの)

「しかし、これには訳があるのじゃ。わしはというと、井戸で生まれ育ち、親も仏も知らずに育ったものじゃから、なむあびあばとぅーすという御念仏しか知らんのじゃて」

(しかしのう。もう少しなんとかならぬか。)

「わかった、わかった。わしとて、融通が利かぬわけではござらぬ。なあに、明日から忙しくなるでのう。天下の鬼退治じゃ。御念仏を唱えるのは、もしかすると生きて帰ってくるからになるかもしれんのう。」

ガッハッハッハ!と桃太郎は笑った。
お地蔵さんは、満足したようにうなづくと、霞のように消えてしまった。

「不思議なこともあるものじゃのう。」




翌日、昨日の夜とは打って変わって晴天となった。今日、おじいさんとおばあさんの住む小屋の目の前で、桃太郎軍団はチーム編成を行うことになった。

「よし。」

リーダーは、ハムスターに即結した。ハムスターは、苦難を乗り越えて16歳を迎えただけあって、上下関係と年下に有無を言わせないことに長けていた。昨今の草野球チームはどうなっているのか知らないが、鬼ヶ島に打ち勝つためには強力なオスホルモンが必要だと桃太郎は見抜いていたのである。

(ちゅう!ちゅーちゅー!ちゅう!)

予想した通り、ハムスターの濱ちゃんは血気盛んに前へ習えをさせようとしていた。
それに一番早く従っていたのは先ずブタ。それから魚(陸タイプ)、最後に沼田ダークサイドである。

(わしはリーダーには向いてないでの。わしは、飛び道具係でいたいのじゃ。)
桃太郎はそんなことを考えていた。

(ちゅう!)「整列、終わりました!隊長!」

濱ちゃんが桃太郎に告げた。

「よし。ご苦労であった。」

桃太郎はメンバーを見回した。このメンバー同士、一体どんな人間関係を構築していくのだろう…そんなことを考えていた。いま、とにかく一番の鬼門となっているのがヌマタと濱ちゃんの仲であった。ブタは誰とでも仲良くなりたがるし、魚はもはや枠外からおじいちゃんのように皆を見下ろしているのか、誰とも折り合っていける様子であった。

沼「おれは、こんな仕事で満足していない。」

ーーまた、始まったか

誰もが思った。それに真っ先にピクリと来たのはもちろん濱ちゃんであった。

ハマ「ちっ。もうおまえの、アイデンティティの話は聞き飽きたんだよ」

ブタはぱたりと耳を閉じて花を詰みはじめ、防御体制に入っている。魚はその辺を泳ぎまわっていた。
桃太郎も内心、おいおい、それを今いうのかと思っていたのだが、ハマの剣幕に触れたせいで「まあ、まあ」の気持ちに一秒くらいでなることが出来た。

沼「だいたい、鬼ヶ島の、どこに鬼がいるのか分からない。」

ハマ「だったら、しらみつぶしに島中探すしかねえだろ!!」

沼「島中?フッ。…何年かかるんだよ…なんか、おまえが鬼みたいだよな。ふふ、ふふ、ふふふは」

桃太郎は取りあえずデジタルカメラを取り出して二人の写真を撮っていた。
そこへ参上したのが魚である。皆、気付いていなかったが、魚がこのメンバーの中で一番の年配者(150歳)だったのである。こういった場面を取りなすのには慣れていた。

魚「まあ、まあ、まあ。いいじゃないですか。とりあえずひとつの目的を《未来》と置いてみましょう。そうすると導き出されるのが《いま》。いまに生まれついたことに僕はとても感じ入っています。《いま》そんな事をしていてもよいのですか?御二方が喧嘩している間に、さっさと鬼ヶ島に言ってしまう者が現れるかも…」

ハマ「それはだめだっちゅ」

ハマは、小さい体でチューチュー言っていた。ヌマタは、どうでもいいとばかりに空を向いている。 

ブタは…?ブタがいない!

桃太郎は辺りを見回してブタを探してみた。しかし、見当たらない。こういうときは、こうするしかない。

おーーーーーい!!ブターーーー!!もう、安全になったぞーーーーー!来ても、大丈夫だぞーーーー!濱ちゃんも、怒ってないからなーーー!特にお前に!

そうするとブタは帰ってきた。

「そっちじゃない!!本アカの方で参れ!!」
桃太郎は、ニセモノのブタを剣で切り裂いた。
そうすると、一時間後、何事もなかったように本アカのブタがやって来た。
「music wow wo 〜」

小一時間ほど、ブタの歌に皆が聞き入った後、のってきて収まりがつかなくなった魚がマイクを受け継いだ。そうして急遽ライブステージが開催されることになった。

パチパチパチパチ…

もちろんそこに座る順は、桃太郎、濱ちゃん、ブタ野郎、それから三席とんでダークサイド沼田である。

濱ちゃん「こういうステージは初めてなので、ドキドキするでチュー!」

桃太郎「落ち着いて…」

魚「聞いてください…僕たちが新潟生まれ、太平洋を渡り蟹の大軍に揉まれた後で作り出した曲「獣のように」。」

ジャジャーン!!

ちょっとくらいなるよごれものならば残さずにまったきものから食べ尽くすでござる
うまれついたるこころにていきられぬことはりを
おぬしのせいにしてばかりいる我なるが
知らぬうちにきずいておりたる
アイデンティティの檻の中でもがき溺れたる我そこに存在せるか…いかに…いかに…いかに

その時。濱ちゃんがおもむろに立ち上がり移動したかと思うとダークサイドの頭を思い切り叩いた。

「おまえ、なんかしろよ!!」

「はっ」

桃太郎「………」

桃太郎の考えていることはこうだった。わしも、たった今同じことを考えていたのじゃが、濱、おまえはなんでそんなに行動的なのだ。
そこにいるほか三人は同意見だったため、とりあえずもう少し観察しよう、という判断を下した。

濱「おまえ、なんでぼーっとしてんだよ!なんか、しろよ!魚サンもブタさんも、俺も…いや、俺も!ちゃんとやってるぞ!おまえ、何しに来たのか言ってみろ!《なんとなくいる》みたいのやめろ!」

濱は、次第にこのメンバーのポジション位置の確認をしたくなってきたのであった。

沼田「俺はダークサイドの人間。おまえ達に素性も、それから理由も明かすわけにはいかない。」


魚「ギョギョッ」







ーー了ーーー