仕事をしているときにFくんと話していた。僕たちは部署で最後の方まで残って納期に間に合わすための作業をしていて、Fくんがそれをしながら「何の果物が好き?」と聞いてきた。僕もそのとき、「そういう質問の仕方ってこの世にあるんだな」と思ったが、その質問のおかげで飽和状態だった自分のなかのくだものに関するエントロピーが集まって来たような気がした。しゅわー!みたいな。
僕は、果物は選んでも良い」という事にあらためて気付いた。多分自分はいつもなら健康と価格を考慮して、いちばん安い季節の果物を選ばされていたような気がする。というか、だいたいの肉、野菜、魚ってそういうものだと思う。
だいたい、こういう質問(例…好きなタレント、いちばん好きな動物みたいな質問)をされた時、一番なんて決められないんじゃないかとふと思った。例えば、一番好きな動物ってなに?って聞かれても、ジャンルがデカ過ぎてどう答えればいいか分からない。犬や猫とかは、好き嫌い以前にもう大量にいるから決められないし、ゾウは飼うことにコストがかかり過ぎるから、「好き」とかっていうよりもディスイズ…みたいな感情しか湧かない。小動物は可愛いかもしれないけど、ウンコとかもするから飼いたいと思わない。クマとかも、そもそも熊からしたらどうでもいいような時点で話す「好き」の種類に何の意味があるのか僕は分からなくなる。でも自分は、Fくんに聞かれて果物なら選んでも良いのかと思った。果物なら、自分の意志で決められると思った。「びわ」。びわが好き。Fくんに、僕は
だからびわが好きって言ってみた。
「うん」
そう言ったら、Fくんはもうあまり興味がないみたいな感じになっていた。
「あと、バナナ」
「うん」
「でも、バナナよりバナナ味の方が選んでいる気がする。」
いまでこそいろんな果汁のフレーバーやサイダーやらコーラまであったりするが、昔はそれほど◯◯味みたいのが充実していなかったって思っていた。
「バナナカステラとかおいしくない?」
「うん」
「バナナミルクとかって美味いよね。バナナ自体より。そういう事ってあるのかな?」
Fくんは、あるって言った。
「たとえば…ももはおいしいのにピーチ味っていつもクスリ臭いんだよね」
僕はFくんにフレーバー全体に対するアンチテーゼを感じてもらったあとで、もっとこの会話を続けていたいと感じていたらしい。
「じゃあ、メロン味は?」
「多分好き」
「すいか味は?」
「そんなのない」
「メロンゼリーってさあ…高級品だよね」
「うん」
僕もFくんも多分、それ以後HORIの夕張メロンピュアゼリーのことを考えていたと思う。