To be continued

単純な日記です。

全部嘘です

今日もアルバイトへ行ってきた。Sくんとの勤務。なんとなく、朝あってすぐ、ロッカーで挨拶したあとで僕たちはいつもと同じ業務、同じ配置に行って仕事を始めた。2時間…3時間…外で雨が降っていることもあってか今日はなかなか客が入っていたのだが十二時前にぱったりと途絶えた。ひまだな…しかしなんとなく、いつもとは違う空気がある。なぜだろう。これは以前にも経験したことがある。遠い昔…それは学生の頃、夏休みや冬休みみたいな長期休暇に入る前に皆がやたらと怪我をしたり男子が意味もなく女子にいたずらを始めて緊急会議が開かれるような傾向と似ていた。俺たちは今日、何か分からないが「もうすぐ、店がなくなる」と言う事実にちょっとだけ浮かれていたのである。Sくんはいつも以上にカウンター周りをしなくてもいいのにはたきをかけていたし、僕自身もいつもならカウンターから50センチ以上はみ出ると不安を感じる作りになっているのに今日は縦横無尽に動き回っていた。お客さんも、たまに「引っ越ししちゃうんですか?」と聞いてくる人がいたのだけど、それに対するSの返事→「ハイ(^ ^)」いつもならクレーム付けてくるお客さんも、店がなくなるのでクーポンは渡せない旨を伝えると「なら…しょうがないな」と言ってくれる。こんな大団円あるだろうか、と僕は一瞬だけど思った。こんな「しょうがなさ」があるだろうか。


よく考えてみるとちょっと前まで、仕事を辞めようと決心していたことを思い出した。だからそもそも、こういう変革が自分とはまったく責任のない部分で起こるとちょっとだけ面白がってしまう自分がいるのだと思った。
辞めたいと感じていた時はいろいろなことがストレスでもう辞めるしかないと思っていたのだけど、ああいう「もう無理」な精神状態になったとしても実際のところはなかなか辞めるという踏ん切りはつかない。僕はこの葛藤を幾たびも繰り返して、実は、続けるよりも辞める方がずっと難しいということってあるのだなと感じた。辞めるために人に挨拶したり「エーッッ辞めるの?!」みたいな波動砲をくらうくらいなら、ダンゴムシみたいになって毎日わけもわからず職場へ行き、ただ土を掘って戻すだけの仕事をしていたほうがずっと楽だったりする…それが定住をよしとする人間の健全な精神なのかもしれない。

僕はでも一応、仕事に集中するべきだと思ってSに聞いてみた。
「Sくん、今後どうするの?仕事きまった?」

「ああ〜まあ…まだ、何も決まってないです」

「前の仕事は?」

「ああ…けっこうキツいんですよね…」
S君が初めに言ったのは『かまし』だったようだ。

「僕もさあ、どうしようかなと思ってるんだよね。何か別に何をやってもいいんだけど、アルバイト転々とこなすのももう無理っぽい年齢なのかなとか思って」

「そうですよね。」Sはまだ若いけれど、やはりフリーター生活というのは不安がつきものだと思う。僕は前職のことをSに話した。

「ええ?!タカセさんがそんな仕事を…?!
見えない……」

そうだろう、と僕は思った。
「羨ましいです。僕もそのつて、全部欲しいですよ」

Sくんは欲望を剥き出しにして言った。

「だろう。前の彼女も同じようなこと多分考えていたと思う。仕事って結局、女にとってはじゃまくさいかもしれないけれど男にとっては鎧みたいなもんだからな。鎧じゃないな…城…かもな」

「紹介してくださいよ」

「何でだよ」

「僕なんて中小企業のリサイクルショップくらいしかあてが無いんですけど…」
Sは、ふたたび欲望を剥き出しにして言った。Sはまだダサいから「おまえに紹介したとて使いこなせるはずがない冗談」の範疇としてこのまま会話することも許せるけれど、もしこれがイケイケのやつだったり飲み屋の姉ちゃん風のやつだったら僕は冷や水を浴びせていただろう。

「でも、大変だよ」

「何がですか」

「だって、皆変な人ばかりだよ。僕だって気が合うって思う相手なんてそんなに居ないし、利害で繋がってる感じもあるし。」

「ふ〜ん」

「例えばさあ」

「はい?」

「何か俺が、成功したとするだろう。そうしたら、そのあとが疲れるんだよな。皆、亡者だから。めちゃくちゃ寄ってたかってクソ女とかバカ男が群がってきてシャツを引きちぎるみたいなこととかいっぱいあった。そこにいる◯ ◯◯◯っていうやつが本当にクソで、僕はそいつのクソコラージュを作ってLINEでまわしてやってたみたいなこともあった。」

「へえ〜」

「あとはさあ。失敗したとするだろう。そうして一人で転んだあとで皆の方振り向くだろう。そうしたら、それを狙って落とし穴いっぱい掘ってたやつ十人くらいと目が合うんだよ」

「…」


「そこに居るってだけでずっと色んなもの身につけて、摂取して、流布してないとならないんだよな。疲れるよ。良い奴もいるけど、悪い奴の方が多いし。好かれるために生きるのって疲れるよな。それと比べるとアルバイトって、いいよな。お客さんは喜んでくれるし、仕事したらその辺は片付くし、金入るし。やさぐれるよ。ああいう、黄金を集めないと生きていけないみたいな連中」

「僕は全然、いいですけどね」

「は?」

僕はSを見てみた。Sは、棚の補修作業をセロテープを使ってしていた。こいつ、何も知らないでステーキは絶対旨いと思って生きてるんだろうなと思う。

「じゃあ、やってみれば」

「え…?!じゃあ、紹介ください!」


僕は迷った。いい加減なのだが、紹介といっても、いまは全然仲良くない人の方が多いっていうことを話していてやっと思い出したのだった。

こう考えてみると意外とだけどSというのは注目されるのが好きなタイプの人間みたいである。えんえんと意味不明な会話を半径1メートル範囲では辛うじて聞こえるくらいの声量でしていたい僕からすると理解できないが、結局服とかも気を使っているしそういう舞台に対して興味があるのだ。だから嫌なんだ「服にこだわる奴」。服にこだわるやつはとにかく虚栄心と美意識が高い。僕の知っているNさんは一見おしゃれに見えるけど、同じテンプレートの色違いを着まわしているだけで実はコーヒー以外どうでもいいみたいな趣向の人だし、Yさんに至っては「その色似合いますね」といったら十回くらい黄色いコーンポタージュみたいなセーターを着て来たりするくらいどこかが抜けていてばかばかしい。けど皆、人としては信用できるのだ…。僕はというと長年の経験からしてとにかく黄金、カネ、コネクションの話を聞いて一瞬であれど目を輝かすようなやつっていうのは自分にとって危険と判断していて、そういうのって若いチャンネーにすごく多いので僕は普通に酒に睡眠薬を入れ込んで路上でパンツ脱がせるみたいなことをしたいと考えてしまう暗黒の自分を密かに育て上げていた。そうやって行動していると知らないうちに誰かが僕のことを「こじるりが死ぬほど嫌いな奴」とネーミングを付けているみたいなこともあった。ちょっと待ってください…!僕は、こじるりにはじめから少しも興味がないんですけど…!どちらかというと人間観察的な意味で能力値のバロメーターのバランスが良いはあちゅうさんの方が興味があったりはする。(AV、防御力、死ぬほど受け体質等)けどSみたいにダサい人間ならそれを享受するよりか困っているところを大幅に観察できるのかなと思ったりはした。でも教えなかった。

「若いんだから自分で見つけてこいよ。」

「え…冷たい!」

Sは可愛い感じで言った。